卒業生の辞

卒業生の辞を述べる市田翼さん(入試広報課提供)

【3月19日に挙行された令和3年度卒業式・修了式で国際文化学科卒業生の市田翼さんが卒業生を代表して述べた「卒業生の辞」を掲載します。】

やわらかな日差しが心地よく、春の訪れを感じさせる季節となりました。本日、私達のためにこのような式典をご用意くださり、誠にありがとうございます。卒業生一同心より御礼申し上げます。

今、私がここで答辞を読んでいるのは、在学中に何か大きな賞を受賞したからでも、顕著な研究実績をあげたからでもありません。言うなれば「普通」の大学生活を過ごしてきたからに過ぎません。好きな科目の単位を修得して卒業する――、大学生として、「普通」のことであり、また当然のことですが、私にとっては簡単なことではありませんでした。見ての通り、私には重度障害があり、身支度にも介助が必要です。そのため、最初は、大学に入学したとしても、四年間通い続けられるという確信を持つことはできせんでした。しかし、私は同世代の人たちと同じように大学で学びたかったのです。そして、「普通」に大学で学んだ私は「普通」に大学を卒業します。

今、こうして卒業というゴールに到達することができたのは、ひとえに多くの支えがあったからです。入学当初、周囲の学生との接し方で困惑していた私に、「周りを気にするな」と助言をくれた先輩。障害の有無など関係なく接してくれるマクマレイ教授。全く対等な仲間として受け入れてくれたマックゼミのメンバーたち。福祉制度で大学に同行してくれたヘルパー。その福祉制度の利用に奔走してくれた姶良市役所。そして、何よりも毎日の準備と送り迎えをしてくれた両親がいました。

振り返れば、支えてくれた人を挙げるとキリがなく、こうして自由に学べたことに感謝しかありません。これまで勉学に打ち込めたのは、支えてくれる人たちへの感謝と、その期待に応えたいという思いがあったからこそと思います。その甲斐があり、四年生で特待生に選ばれたことは素直に嬉しかったです。

こんな私の「普通」の大学生活の中で、ひとつの確信を得ました。たとえ障害があっても可能性はある、ということです。入学するまでは、観念的なお題目としての「可能性」でしたが、実体のある具体的な「可能性」であることを認識できたのはマクマレイ教授のおかげです。

きっかけは、ゼミ活動の一環で、南大隅町の観光リーフレットのデザインを任されたことです。得意な画像編集のスキルを活かせる役割であり、夢中で取り組みました。その結果、第三者からそのデザインを認められるに至りました。この経験が大きな自信になり、自身の可能性を信じてみようと強く思えました。それは就職活動でも生かされ、ウェブ制作企業への内定に繋がったのだと思います。

大学での四年間は、多くの人に支えられながらも、他の大学生と同じように通い続けられ、自身の可能性を見出すことができました。卒業後も、この大学で培ったものを胸に、自分自身を信じて突き進んでいきたいと思います。

さて、本日を節目にして、私達卒業生はそれぞれの道に進んでいきます。多くの困難に直面し、くじけそうになったとしても、この鹿児島国際大学での経験はきっと背中を後押ししてくれるはずです。この節目に際して、一つ言葉を送りたいと思います。 “Seize the day, and place no trust in tomorrow.”――「今この瞬間を生きろ」。

最後に、卒業生を代表して、私たちを支えてくださった全ての方に心より御礼申し上げます。また、皆様方のご健康と鹿児島国際大学の益々の発展を願い、答辞といたします。

令和4年3月19日

卒業生代表 国際文化学部 国際文化学科 市田 翼

*市田翼さんは2022年5月4日に急逝されました。謹んでお悔やみを申し上げますとともに、心よりご冥福をお祈りいたします。(2022年5月7日追記)