国を越えて詠む季節 ――北アメリカ×日本、俳句と気候の対話

Zoomを使ってアメリカ人研究者のインタビューに応じる(マクマレイ研究室提供)

春の心地よい風を感じる4月30日、アメリカ出身の研究者であり、現在アメリカの補助金を受けて日本で研究を行っているAnna Lenakerさんのオンラインインタビューに応じました。私と一緒にAnnaさんの質問に答えたのは、私の研究室のメンバーである国際文化研究科2年生シュウ・イーボーさんと、国際文化学科3年有水海翔さん。

Annaさんは「How climate change affects Japanese arts such as food, fashion and literature (気候変動は日本の芸術(食・流行・文学)にどのように影響を与えるのか)」というテーマで、1年間にわたり日本で研究を進めており、その一環として俳句と気候変動に関心を寄せる3人へのインタビューが行ないました。 私とのつながりは、『ガーディアン』紙をはじめ、『北日本新聞』や『朝日ウィークリー』などで俳句と気候変動についての記事を読んだことがきっかけだったといいます。そして、私の著書『Teaching and Learning Haiku in Englishi』に触れたことを機に、今回の貴重な交流の機会が実現しました。 インタビューは約90分間、英語で行われ、Annaさんからは計10の質問が投げかけられました。ここでは、その中でも特に印象的だった2つのテーマについて紹介します。

 1つ目は「英語俳句のあり方」についてです。古くから日本で親しまれてきた俳句文化に対し、「海外の多様な文化を取り入れてもよいのか?」「多様化することで、本来の俳句の魅力が失われるのではないか?」といった問いが挙げられました。 これに対し、大学院で「俳句の欧米化(De-Japanization of English Haiku)」を研究しているシュウ・イーボーさんは次のように述べました。 「確かに、過去の俳句と比べると、多様化が進んでいるのは事実です。以前は季語を重視し、四季の情景を詠むものが多く見られましたが、現在では現代文化やテクノロジーを題材とした俳句も増えてきています。ただし、多様なテーマを取り入れつつも、“見た風景をそのまま描写する”という俳句特有の写生の手法は、今後も大切にしていくべきだと思います。」 

 2つ目の話題は、「俳句と気候変動の関係」についてです。 今年3月にカナダを訪れ、気候変動と俳句について学んだ有水海翔さんは、次のように話しました。「春夏秋冬という明確な四季を持つ日本では、その自然環境をもとに季語が生まれ、俳句文化が育まれてきました。しかし現在、気候変動の影響により、歳時記に載っている季語と実際に感じる季節との間にズレが生じています。例えば『台風』は本来、秋の季語として扱われてきましたが、最近では4月や5月にも発生しており、もはや秋に限ったものではありません。気候変動がさらに進めば、こうした季語と現実の季節感とのギャップがますます広がり、俳句を詠む際の違和感が増すでしょう。つまり、気候変動は日本文化そのものを脅かす存在であると言えます」

このように、他にも数多くの興味深く魅力的な議論が交わされ、互いの考えを共有することで、研究者としてのAnnaさんにとっても、有水さんやシュウさんにとっても学びの多い貴重な時間となりました。国によって俳句や気候変動に対する価値観や意識に違いはあるかもしれませんが、「次世代を守る」という共通の意識は、国境を越えて全世界が持つべきであると感じさせられる、充実したインタビューとなりました。

国際文化学科教授 マクマレイ デビッド(英語教育・国際俳句)